さや侍
松本人志監督作品は常に話題を呼び辛辣な批判にもさらされるのだが、作品そのものより松本人志をどう思っているか、ということで評価が大きく変わる傾向が大きいようだ。そういう意味では”もし松本人志が監督ではなかったらどんな評価になるか”ということが松本作品にとって一番幸せな(公平な)ジャッジなのかもしれない。
ということを踏まえての感想は”普通に楽しめる映画”。ものすごく面白いわけではないが、金返せ!というほど酷くもない感じ。前2作に比べるとかなり映画らしい作りにはなっている。
今回は松本監督が主演を兼ねなかったことで、個々の役者が持つ能力を遠慮無く引き出せた。キャスティングによってある程度映画の骨格が明確になったことはよかった点だ。そもそも野見さんでしか成立しない作品だが、野見さんは想像よりはるかに良かったと思う。子役の熊田聖亜は前評判通りかわいかったし、板尾創路も彼なりに良い演技をしていた。
本作は野見勘十郎という脱藩侍が切腹を回避するためのネタ見せシーンと、その後のハートフルな場面の2部構成になっている。野狐禅の竹原ピストルが歌うシーンは作品のクライマックスで、この演出には松本監督の個性というか作家性が強く反映されている。
松本監督がインタビューでも答えているように「自分に娘ができたこと」が本作の創作のベースになっている。それが表現者としての今の松本人志のリアルなのだ。松本人志に“ごっつ”や“ビジュアルバム”の切れ味を求めるのは、いい加減やめたほうがいいのだろう。もはや彼はそこにいないし、それができるとも思えない。
喜劇映画でめちゃめちゃ面白い作品は国内外を問わずいくらでもあるし、人情映画の傑作だって同様にいくらでもある。そういう傑作に対して本作を含めて松本人志の作品が秀でているところは、”今のところ”ひとつもない。加えて映画監督としても”今のところ”凡庸だ。しかし松本人志という稀代のお笑い芸人の行く末に興味があるのであれば、彼の創作物を気長に楽しんでいけばいいのではないだろうか。個人的には「大日本人」はけっこう好きな作品だし、本作もまあまあ楽しめた。
以下、雑感。
本作は映画としてはかなり難しい作り方を強いられていると思う。作品のアイデアをオチから思いついたのか、野見さんにむちゃぶりしてみようということから発想したのか、本当のところは分からないが、そもそも最初から最低でも29日間、若君が笑わないのはミエミエなわけだから、野見勘十郎がすこぶる面白いネタを毎日連発し、殿様や老中が笑い転げてしまっては話がおかしくなってくる。
野見は若君を笑わせることができずにどんどん切腹の期日が近づいてくる、というのが本作のメインストーリーなわけで、野見勘十郎という人物にリアリティを持たせるのであればネタは面白くなくていいのだ。つまり“喜劇としては笑わせるべきだがストーリー上ネタは面白くない必要がある”という構造の矛盾を最初から内包しているのだ。あくまでコメディ映画を撮るという目的が松本監督にあれば、だが。
もちろん松本監督は純粋に観客を笑わせたいと思って野見さんにネタをふっているのだと思う。ところがそのネタがストーリーに沿っているかのごとく、まったく面白くない。これが本作の最大のマイナス点。「あの松本人志だったらものすごい笑いを見せてくれるはずだ!」なんていう意地悪な見方をしたわけでもなく、ほんと、単純にほとんどクスリとも笑えなかった。
目にミカンをはめ込む、鼻フック、顔面ストッキング、人間大砲、炎の輪くぐりが雨でオジャン…、マジつまんねー(笑)。野見さんらしさ全開の一人相撲と口三味線だけはちょっと面白かったが。
<Raiting>
竹原ピストルのシーンは実は三途の川で、後半は全部娘の妄想かと思ってたらエンドロールが終わった後のサプライズシーンで、なんだぜんぜん違うじゃん!とずっこけた。ということで最後まで席を立たないように。
<Trailer>
テーマ:映画館で観た映画
あー
さや侍@ぴあ映画生活
評価:
--- アール・アンド・シー ¥ 8,624 (2003-03-26) |
- 2011.06.12 Sunday
- 映画
- 03:17
- comments(3)
- trackbacks(0)
>だけはちょっと面白かったが。
どっちやねんw
私が見た劇場では笑いが起きていましたよ。
最初のひとつは客席が静まり返り皆息を殺していましたがテンポが分かって来ると皆さん思い思いに笑っていましたよ。
ネタの面白い、つまらないの話は好みに大きく依存するのでレビューのまとめに持っていくと弱い気がしました。その他はなるほどなるほどと楽しく読まさせて頂きました。