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ノルウェイの森

ノルウェイの森

本作は1987年に発売された村上春樹の同名小説が原作、ということは誰だって知っている。読んだかどうかは別にして、日本人の一般教養みたいなものだ。

ところで今、この物語を誰がどういう興味を持って進んで鑑賞するのだろうか。原作は発売こそ1987年だが、物語の舞台はそこからさらに20年もさかのぼる学生運動の盛んな頃の日本。仮に物語と同時代を生きた読者が本作のターゲットだとすると、その読者たちは小説発売時にはすでに40歳前後、今なら60歳をとうに過ぎていることになる。なんたって御年60歳の内田樹先生あたりも嬉々として思い入れたっぷりの感想を述べているんだから。

もちろんリアルタイムにその時代を体験していなくても小説を読むのは自由だし、当時の中学生だって読んだろうから、なにも老人向けの内容だと言うつもりはない。だけど発売から23年が経ち、その内容がさらに20年もさかのぼったものであるのだから、映画版「ノルウェイの森」の製作発表があったときには、いったいどれだけの鑑賞者が内容そのものに興味をもつのか、またこの物語のどこに興味を抱くのか、いまいちピンとこなかった。

原作が発売された当時はまさにバブル真っ只中。しかしバブルに踊ったのは踊れる場所にいた人間だけで、日本人全員が莫大な富を手に入れて浮かれていたわけじゃない。実直さやひたむきさが意味を失いつつあった世の風潮を否定するように「ノルウェイの森」は出版され、そして大ヒットした。しかしこの時代性を外して考えてみた場合、「ノルウェイの森」はこれほど売れる内容だったろうか? この売上そのものもまたバブル的なものではなかったか?

僕がこの物語の断片を知ったのは短篇集「納屋を焼く」のなかの「蛍」という短い物語だった。モチーフは現実味があるのにどこか浮遊感のある、とても奇妙な手触りの小説だった。「ノルウェイの森」はこの「蛍」を引き伸ばした小説で、個人的には圧倒的に「蛍」に魅了されていた。より写実的に、かつ情緒的に深化した「ノルウェイの森」はちょっと過剰だった。それでも読み終えたあとには言葉に出来ない感動があったことは事実。でも主人公ワタナベの過ごした青春時代と共通項を持たない者としてワタナベに素直に感情移入できたかというと、そう簡単ではなかった。そんな自分の体験を踏まえて考えると、映画版「ノルウェイの森」を幅広い人々に楽しんでもらうためには、けっこう高いハードルを超えなければならないのではないかと考えていた。

しかし製作者はぬかりなく、原作ファン以外のあらゆる層に興味を持ってもらえるように、おいしいキャスティングをほどこした。トラン・アン・ユン監督で映像描写系大好き層をしっかり取り込み、主演に松山ケンイチや菊地凛子を配して話題性を高め、劇中音楽にはレディオヘッドのジョニー・グリーンウッドを起用し、さらに主題歌には極めつけ!本家本元のビートルズの楽曲を使用、という素晴らしく隙のない布陣。これが北川龍平監督、佐藤隆太&長澤まさみ主演、さらに主題歌が財津和夫のカバー曲だったら、誰も見に行かなかっただろう(あたりまえか)。

ちょっと脇道にそれるが、ビートルズの件に関してはどうも違和感がある。「EMIミュージック・ジャパンの担当までが驚く“異例の楽曲使用許可!”」などとさかんに宣伝してたけど、1981年の角川映画「悪霊島」で使用されたビートルズの「レット・イット・ビー」の印象が強烈なだけに、そんなに驚くようなことか?と感じた映画ファンも多かったと思う。それにビートルズの曲名は「ノルウェーの森」だしな。しかも最近の解釈だと「森」ですらないし…。

というわけで、本作「ノルウェイの森」。ストーリーは2ch風にまとめれば

「モラトリアム男がメンヘラ女とのつきあいのなかで喪失感だの葛藤だのに囚われて苦悩するのだがセックスだけはいっちょまえにいっぱいする。」

ということになる。あくまで映画版のあらすじレベルでいえば、だけど。

実際、主人公ワタナベが直面する苦悩って蟹工船的な悲惨さとか中上健次の描くどん底生活のようなリアルな苦悩や困窮ではなく、もうちょっと線の細い、いってみれば高度成長時代だからこそウジウジと悩んでいられるレベルの喪失感だの葛藤だのにまみれている。だから冒頭で述べたように実体験としてのセンチメンタリズムを共有できる人たちはいいとして、もっともっと差し迫った不安や困窮に直面している“現代の主人公同学年層”は、いったいこの映画の中の状況をどう見るんだろう?と思ってしまうのだ。そういう意味では、余計なお世話かもしれないけど、ある程度登場人物に感情移入できないと、けっこうムカムカする作品かもしれない。だから流行ってるからといってどんな内容かも知らずに無理してまで観る必要はないだろう。

そこをクリアできる人にとって、本作はなかなかの秀作だと思う。本作が日本映画といっていいのかどうか分からないが、多くの邦画に比べて致命的な問題点の少ない作品だ。意味のない長回しや雑な編集がなく、テレビドラマっぽさを感じさせない秀逸なカメラワークがあり、予算の問題で端折ります!的なやっつけ感もない。村上春樹の世界観を丁寧に映像化している点は見事といってもいいかもしれない。トラン・アン・ユン監督の力量はしっかりと示されている。

さて、作品の全体的な評価ということになるが、原作を読まずに映画を観てもそこそこの感動に終始してしまうかもしれない。というか映画だけ見てああだこうだ言ってほしくないとさえ思う。原作の真の素晴らしさは原作の中にしかない。どうせお金を払って劇場で観るなら、ぜひ原作を読んでいくべし。松山ケンイチがどれだけフィットしているかも原作を読まなきゃ分からない。ということで原作は必読!

<Raiting>
邦画としてはなかなかの出来なので、しつこいようだけど原作読んで、より深く楽しんでほしい。原作未読の場合、単なるモラトリアム&ナルシストのくだらない悩みに付き合わされるだけのムカツク作品となってしまうかもしれない。


<Trailer:ノルウェイの森>



<Trailer:悪霊島>

あー
ノルウェイの森@ぴあ映画生活


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